研究概要

私は病院で働いているときに、医療を受けている子どもが子どもらしくない、つまり子どもらしく遊べたり学べたりできていなかったり、医療を受ける際に適切な情報が得られていない、意見や質問をする機会がないなど、子どもの権利が守られていない、といった場面によく遭遇してきました。そんな時に、そのころ小児看護領域においてトレンドになりつつあった「プレパレーション」の考え方に出会いました。プレパレーションとは簡単にいうとインフォームド・コンセントの子ども版です。子どもには大人に行うような一律的な説明、あるいは論理的思考ができることを前提とした説明ではわかりません。その子どもに合わせた方法が求められます。また、プレパレーションは「痛い」「嫌だ」といったネガティブな変数を軽減できる、といわれています。しかし、それ以前にプレパレーションは子どもに医療を提供する医療者として当たり前の倫理的配慮であると考えます。

そのような考え方に触れたときに、自分自身があまり受診することに前向きではないことに気づきました。つまり私は「病院ぎらい」です。私は喘息の既往があり幼少期によく発作で外来を受診していました。その時の経験が大人になった私を後ろ向きな気持ちにさせています。そこで、幼少期の医療を受けた経験が「病院ぎらい」を生じさせている、という仮説が立ったわけです。もしその仮説が真であれば、幼少期の医療を受けた経験によりもたらされる後ろ向きな気持ちを軽減する必要がある、と考えました。一方で私は、入院しているからこそ得られる経験を踏まえて成長している子どもにもよく出会いました。つまりは、幼少期の医療を受けた経験はネガティブなものをもたらすだけではなく「成長・発達の糧(自己肯定感、自尊感情、自己効力感など)」というポジティブなものも同時にもたらすことにも気づきました。そこで、看護師がどのようなプレパレーションを提供すれば「病院ぎらい」の子どもをなくすことができるのか、さらには「成長・発達の糧」を提供できるのか、という疑問にたどり着きました。

では、これらの疑問をもとに取り組んでいる私の研究を紹介します。まず、子どもにとって最適なプレパレーションとは何かを明確にする必要があると思いました。プレパレーションは様々な定義がなされていますが、私が大事にしたいと考えているのはプレパレーションという介入によりプレパレーションを受けた子どもが医療(処置・検査・手術など)を受けたあとに「がんばったことを実感すること」です。そこで、医療を受けた子どもの「がんばった」かどうかを評価する指標が必要であると考えました。「病院ぎらい」にさせている受診時の出来事は、痛みの伴う穿刺を伴う処置の影響が大きいのではないかと考え、対象処置を採血と予防接種に限定して大人が子どもの処置時の様子を観察して評価する「がんばったスケール」、そして子ども自身ががんばったかどうかを自己評価するフェイススケールを作成しました。

次にこの「がんばったスケール」をもとに有効なケアを熟練看護師の振る舞いを観察することで明らかにしました。その結果、6カテゴリー、25のサブカテゴリーから成る、採血を受けた幼児が「がんばった」と実感できるケア方法を作成しました。

これまでに得られた研究成果をもとに現在は、学習プログラム【第1回】【第2回】を作成しその効果を検証しています。対面で行った学習プログラムでは受講した看護師への一定の学習効果が得られました(現在論文執筆中)。そして、今後の研究としてLearning Management System(LMS)、いわゆるMoodleなどのプラットフォーム上で学習プログラムを展開できるような環境を構築し、その効果を測定しようと考えています。さらには、採血を受けた幼児が「がんばった」と実感できるケアを受けた子どもが「がんばったことを実感すること」ができたかどうかを「がんばったスケール」にて評価すること、また子どもの属性により「がんばり方」や「がんばった実感」にどのような傾向がみられるかなどを検証したいと考えています。